パーキンソン病の症状改善を目指す「ロックステディボクシング」を体験してきた

健康
ロックステディボクシングのグローブ

当事者で公認コーチの管理栄養士

パーキンソン病の症状改善・回復を目指すフィットネスプログラムの1つに「ロックステディボクシング(RSB)」があります。このほど都内で行われた普及イベントに参加してきました。

呼びかけたのは、自身もパーキンソン病患者である管理栄養士の山口美佐さん。山口さんは日本ではただ1人、当事者でありながらRSBの公認コーチ資格を持っており、都内で定期的にレッスンを開催しています。

この日はそこの生徒さんやRSB初体験の方々含め、約20人のパーキンソン病患者の方が集まり、楽しく体を動かしていました。

参加者に声をかける山口さん(左)

パーキンソン病とは

RSBの話をする前に、皆さんはパーキンソン病についてどこまでご存じでしょうか。手足が震え、動きが硬くなる症状が出るということぐらいは見聞きしているでしょうか。

パーキンソン病は脳の神経細胞が壊され、神経伝達物質のドーパミンが減る難病です。動作が遅くなり、手足の震え、歩行障害や便秘、睡眠障害など様々な症状が現れます。

50歳頃から増え始め、高齢になるほど発症率や有病率が増加。日本での患者の割合は約1000人に1人、65歳以上になると100人に1人とされ、2020年の厚生労働省の調査では約29 万人が罹患していると報告されています。高齢化に伴い、今後さらに増えると予想されており、いつ自分が当事者になるのかは分かりません。

薬とうまく付き合うのがカギ

世界的に治療の研究が進められていますが、今のところ根本的な治療法はありません。薬物療法で進行を遅らせたり、外科手術をするのみです。

パーキンソン病になったからといって、すぐに死に直面することはありません。薬を上手に効かせ、うまく病気と付き合うことで長生きできます。しかし、不治の病であることは間違いなく、それで鬱になるなど心を病んだり、活動範囲が狭まって低栄養になり、フレイルやサルコペニア、ほかの病気との合併症を引き起こす患者が多くいるのです。

山口さんはそれを防ごうと自分の体を通して栄養の大切さを説き、カラダを動かそう、みんなでつながって、一緒に前に進もう! と様々な活動を行っています。

パーキンソン病の主な症状

パーキンソン病の主な症状
  • 安静時振戦 
    ・じっとしているときに震える(1秒間に5回程度、片方の手や足の震えから始まることが多い)
    ・睡眠中は治まるが、目が覚めると震えが始まる
  • 無動
    ・動きが鈍くなる
    ・歩くときに足が出にくくなる(すくみ足)
    ・話し方に抑揚がなくなり、小声になる
    ・書く文字が小さくなる
  • 筋強剛(筋固縮)
    ・顔の筋肉がこわばり、表情がなくなる
    ・手足の動きがぎこちない
    ・肩や腰が痛む
  • 姿勢反射障害
    ・体のバランスがとりにくくなり、転びやすくなる
    ・歩いていて止まれなくなる、方向転換をするのが難しい
    ・食べ物を飲み込みづらくなる(嚥下障害)
    ・症状が進むと、首が下がる、体が斜めに傾くこともある
  • 非運動症状
    ・自律神経症状(便秘や頻尿、立ちくらみ、食後のめまいや失神、発汗、むくみ、冷え、性機能障害)
    ・認知障害(遂行機能障害、ひどい物忘れ)
    ・嗅覚障害
    ・睡眠障害(不眠、日中の眠気)
    ・精神症状(うつ・不安などの症状、無気力、幻覚や錯覚、妄想など)
    ・疲労や疼痛、低体重(疲れやすい、肩や腰の痛み、手足の筋肉痛やしびれなど)

ロックステディボクシングとは

RSBは2006年に米インディアナポリスで始まったプログラムで、米国を中心に世界17カ国で展開されており、日本には2018年に紹介されました。現在11カ所に拠点があります。

ボクシングといっても打ち合いではなく、コーチが構えるミットへの打ち込みを行うもので、パーキンソン病の運動症状(すくみ足、振え、無動、姿勢反射異常など)や非運動症状(睡眠障害、うつなど)にアプローチするものです。

この日のイベントには、パーキンソン病支援団体「NPO法人コントロールPD(パーキンソン病)」代表理事の津野明美さん、同理事で日本に当プログラムを持ち込んだ米国理学療法士で、RSB WTS JAPAN代表の坂井美穂さんも神戸から駆けつけ、コーチとしてミットを構えていました。

イベントを主催した山口さん(左から4人目)とコントロールPD代表理事の津野さん(同2人目)、RSB WTS JAPAN代表の坂井さん(同3人目)

患者の動きに圧倒される

参加した患者の皆さんは、コーチ陣の指示に従って、きびきびと動きます。私は、ウォーミングアップの時から圧倒されっぱなしでした。特に日頃から親しんでいる経験者たちは、リズミカルで軽快で「この人たち、本当にパーキンソン病なの?」と疑わざるを得ない状況で、完全に私の方が早く息が切れていました。

グローブも初めてはめさせてもらいました。12オンス(約340g)をずっとはめていると、意外とずっしりきます。見様見真似でコーチの構えるミットにパンチを繰り出すと、「もっと腰を落として、この角度で!」と山口さんから、優しい口調ながらも厳しく指導され、ストレート、アッパー(のイメージで実際はできていないが)を連続16発。最後は腕が痛くなりそうでした。

強打を繰り出し、激しく動く方がいる一方、恐る恐るパンチを繰り出す初心者の方、介助が必要な方、途中で「オフになった」として薬を飲む人もいましたが、お互いに気遣いながら自由な雰囲気。自分と向き合って「できた」という達成感、同じ病気に立ち向かう「仲間」がいるという連帯感、支えるコーチや関係者が理解してくれるという安心感が感じられる空間でした。

実はエネルギー消費量が多い

パーキンソン病の方は、やせている人が多く見られます。動いていないように見えて、実は筋固縮や振えなどでエネルギー消費量が多いんだそうです。「だからこそ、十分に食べて栄養補給をしなければならない」と山口さんは話します。

山口さんはこの日のために、アスリート仕様の手作りスポーツドリンク(グレープフルーツベース)や、糖質とタンパク質をとれる補食のパンを作ってきてくれていました。前夜に仕込み、早朝から焼いたというパン。そんな1つ1つの心遣いが胸に染みます。

「1人じゃない!仲間がいる!」

最後に、全員で輪になって合わせた声には、前向きなエネルギーがあふれていました。このイベントに参加して学ぶことが多かったと感じます。この病気について知ること、理解すること、関わることは、病気でない人にとっても大切です。

■RSB TOKYO(コーチ・山口美佐)
・日時=毎週土曜日13時半~15時
・場所=東急東横線多摩川駅近辺
・会費等=年会費1万2000円、入会金1万2000円(キャンペーン時期あり)、回数券1万2000円(4枚×3000円)は4カ月以内に使用(体調にあわせて無理なく通えるよう)
・その他=体力測定、外部トレーナーによるトレーニング、管理栄養士監修のお弁当ランチ会など
・問い合わせ https://lin.ee/HQ2MDw4

■NPO法人コントロールPD
海外の情報、運動、栄養や日常に役立つヒントをテキストやYouTubeで配信中
https://www.controlpd.org/

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